あなたがもしものづくりを学びたくて機械工学科に入ったなら、大学のカリキュラムを勉強しているだけでは不十分で、一生懸命勉強しても何一つ物を作れるようにはならない。なぜなら、機械工学科で学べることを乱暴に言ってしまうと、物体にどんな力が掛かるか計算したり、どれくらいの力までならその部品が壊れないか計算する方法だからだ。もちろんそれにも大いに価値があるし、大学だからこそ学べることなので自信を持って大いに学んでほしいのだが、それができるのはものづくりのいち要件でしかない。例えば、そもそもどんな形状のものを作るのか、どうやって組み合わせるのか、ある加工をしたいときにどういう工具・設備をどう使えば良いのかなどは学べない。
そして学問的な知識についても、ある程度学べはするが十分かというとそうでもない。
ものづくりを学びたいなら
自分でものづくりをするのが最も良い。
ものづくりに限らずほとんどの生産的活動には、学(サイエンス)と術(アート)が必要だ。大学で学べるのはサイエンスばかりでアートは学べない。アートを学ぶ最良の方法は自分の手を動かして経験することだ。
大学という環境を活かすなら、思いつくのは学生フォーミュラやロボット研究会といったものづくりサークルだ。設備も整っているだろう。私の母校の学生フォーミュラは、サークルというよりもはや仕事なんじゃと思うほど本格的だった。
次に思いつくのはDIYだ。金属を加工するには大掛かりな設備が必要だが、木と樹脂なら、時間は掛かるが手で持てる工具や刃物で加工できる。部品同士の連結に金具を使えば、1人乗りの乗り物程度なら木や樹脂でも強度的に問題はない。強度計算は学科の勉強の活かしどころだ。動力はモーターを買ってくるか、電動ドリルで代用しても良い。
それらのハードルが高いならもっと小さなことでもいい。StormworksやSpace Engineersなどものづくりができるゲームをやるとか、機械の原理や構造を知るためにブルーバックスの本を読むとか。いきなり大学図書館に置いてある専門書は難しいが、そういう一般向けの図書にも、学科では学ばないけど興味深いことはたくさん書いてある。
学問的な知識を得たいなら
自分で教科書を読むのが良い。つまり独学だ。
他の大学の事情は知らないが、私が通った大学の授業では、買った教科書の半分くらいしか扱わないことがほとんどだった。こんな勉強の仕方で体系的な知識が得られるだろうか?
ただ、教科書を1人で読み進めるのは相当時間がかかる。当然分からないところが出てくるから、別の基礎的な本や平易な本に迂回する必要もあるだろう。授業で少しだけかじった本というのは猛烈な速度で積まれていくので、ごく少数の科目に絞って自習すべきだろう。私が学生の頃にはなかったチャットAIは強力な味方だ。
もし、「工学部には入れたけど高校の数学や物理で分からなかったところや問題がたくさんあった」という人は、独学では高校数学・物理のやり直しをまずやることをおすすめする。高校の参考書や問題集に出てくる問題というのは、けっこう趣向が凝らされており複雑だ。大学のレベルにもよるのだろうが、少なくとも私の大学の授業やテストの問題というのは、そんなに凝っておらずストレートな問題が多かった。だから、大学の授業やテストの問題だけでは、凝った問題に頭を捻って立ち向かうという経験が不足する。しかしこういう経験こそ、研究するときに一番重要な経験なのだ。
もう1つやり直しを勧める理由としては、大学で習った知識を使う練習になるからだ。大学の力学の授業では微分方程式をばんばん使う。高校のやり直しをするときも微分方程式を使ってやれば良いのだ。強くてニューゲームだ。
もちろん、高校のやり直しをすると言っても全部やり直す必要はなく、やりたいやつだけでいい。数学なら微分積分が一番大事で、例えば整数論や確率などはやらなくてもよい。物理なら、力学と熱力学が大事で、電磁気と波動はやらなくてよい。